言い返す
絶対に「そうですね」と同意を示したくない発言がある。性差別、人種差別、障がい者差別、あるいは自分の大切なものを傷つけるような発言、いかなる文脈であろうと、同意してはならないことばがある。
それでも、言い返せないときがある。というより、多くの場合しっかりと言い返せずに終わる。「まあ...」「そうかもしれませんね...」そんなことばしか打ち返せない自分に腹が立つけれど、腹を立ててもどうにもならない。大抵は別の誰かに相談し、その鬱憤を吐き出し、そして忘れる。不快な発言も、それを止められなかった自分の不甲斐なさも。
多くの場合、そういった発言は冗談混じりだったり、なんてことないことばの端っこに現れたりする。差別や攻撃が目的ではないことばに紛れて、ぼくの耳を驚かせる。
「関係性を壊したくない」と思う。この先生、先輩、友人、知り合いとの積み重ねてきた時間を、「こんなくだらないこと」で台無しにしたくないと思う。実際は、全然くだらないことじゃないのだけど。
言い返すのが苦手な子どもだった。嫌なことを言われて、口喧嘩出来ずに、大泣きして先生や周りの友人に助けてもらう、そんなことしかできない子どもだった。あるいは、傷つきやすい子どもだった。自分に差し向けられた敵意でなくても、強く傷ついてしまう子どもだった。そんな情けないぼくを「やさしい」と形容してくれる、やさしい人たちに囲まれてなんとかぼくはぼくを肯定してきた。
言い返さなきゃいけないと思う。「それ、パワハラですよ」「おっしゃっていることの意味がわかりません」「は?つまんね」暴力的なことばを含んだとしても。
忘れちゃいけないと思う。あのとき悔しかったこと。言い返せなかったこと。ぼくは弱いけれど、たまには言い返さないといけない。もちろん、いつもいつも言い返せるわけではない。きっとそんなことは誰にもできない。だけど、たまには息をゆっくり吸って、言い返したい。
逆に言えば、ぼくが何かおかしいことを口走ったら、止めて欲しい。たくさん勇気が要ることだとは思うけれど、そんなことで人間関係を壊すぼくじゃない。信じて欲しい。