なぞる

なんか書いたやつ

ぼくのよろこび

「自分が他の誰かではなくて、自分であってよかったと思うのはどんなとき?」


そんな質問を知り合いにしたことがある。その子はすこし悩んでこんな風に答えてくれた。


「他の人では思いつかないようなことを、自分が思いつくときとか、自分では絶対にしない失敗を、他の人がしているのを見たときとか」


つまり、自分が他の人より秀でていることに、彼はよろこびを感じているようだった。それはとても自然なことだと思う。だけど、ぼくはそのようなかたちでは自分が自分であることによろこびを感じることができない。


「ぼくは、今まで出会った色々な人、見てきた景色、読んだ本、そういったものを思い返すとき、「ああ、この全ての人に出会ったのはぼくしかいないんだな、この全ての本を読んだのはぼくしかいないんだな」と思って、自分であってよかった、と思うよ」


そう答えた。その答えは、今のところ変わっていない。

 


*****

 


自分に秀でたところがあるとは思えないし、だからといって秀でた存在になりたいとも思えない。ぼくはすでにとても素敵なものに囲まれているし、それらの素敵な存在がきらめき続けることが、ぼくにとって最も重要なことだと思う。


去年の夏、友達と夜道を歩いていたとき、後ろから車にはねられた。気づいたら地面に頭から倒れ込んでいた。怖かった。それと同時にはねられたのがぼくで良かったとも思った。友達が車にはねられることの方が、つらいし、怖いだろうと思ったからだ。


自分がいなくなることや、自分の身体が動けなくなることと同じくらい、友達が失われてしまうことの方が怖い。それは、すでに友達がぼくの一部を作っているからなのだと思う。ぼくがぼくであって良かったと思える、その一部として、友達がいる。 


自己肯定感は高くないし、自信もない。そんな弱々しいぼくだけど、素敵な人に、ものに、取り囲まれていること、それだけは自信を持って言える。本当に素朴でありきたりなことばになってしまうけれど、亡くなってしまった人を含めた、すべての人とのつながりを大切にして、丁寧に生きていきたい。