なぞる

なんか書いたやつ

読みが外れた、黄泉の国

 バドミントンをしていたら、思っていたショットが来なかったのだろうか、後輩が、「読みが外れた、黄泉の国」と言った。ぼくは笑った。たった二文字の、意味のないだじゃれが、うまくないと思ったのだ。
 
 普段ぼくは「読み」と「黄泉」を全く異なる単語として認識しているし、そこになんのつながりも見出してはいない。ぼくの脳内にどんなふうに言葉がしまわれているのかわからないが、それは辞書のようにあいうえお順でないことだけは確かである。だから、動詞が名詞になったような形の「読み」と、死後の世界である「黄泉」はおそらくは違う棚にしまわれていて、繋がることがない。
 
 あるほこらに、広辞苑が置かれていて、人々はやってきては、項目を口に出して読みあげる。説明も含めてすべて読みあげ、長い長い文章をやっと言い終わると満足そうに去っていく。なぜなら、そのものを読みあげると、死者の国にそれが運ばれるからである。フライドポテトとハンバーガーを読みあげた少年の、亡き祖父は、ファストフードが大好きだったが、コーラがないと満足できないらしく、少年がコーラの説明を読むのをずっと待っている。
 
 だじゃれから、そんな話を作ることができるかもしれない。他にもっといろんな話がありうるだろう。ダジャレひとつひとつそれぞれに扉があり、それを開くと不思議な街が広がっているのだが、ぼくらはわざわざその街を訪れたりはせず、もっといえば扉の存在にも気づかないまま通りすぎていく。
 
 街に住むことは厳しい。それをする時間的余裕はない。しかし、そこに扉があることに気づかないのはもったいない気もする。バドミントンをしながらなんとなく開けた扉から、街の様子を覗き込んだぼくは、相手がドロップショットを打つのではないかと予測し、右足で強く地面を蹴って前に飛び出して、シャトルを強く叩き込むと、シャトルはまるで死骸のようにコートに止まった。扉はまだ少し開いていて、ぼくの足元を照らしていた。