なぞる

なんか書いたやつ

書評

『ロリータ』感想:サーブの小宇宙

我がロリータには、ゆったりと弾みをつけてサーブを開始するとき、曲げた左膝を上げる癖があり、そこで一瞬のあいだ、爪先だった脚と、まだ毛もほとんど生えていない腋の下と、日焼けした腕と、後ろにふりかぶったラケットとのあいだに、いきいきとしたバラ…

可能性と軌道

まみの白い机は夢にあらわれて「可能性」と名乗った。アイム、ポシビリティ 可能性。ソフトクリーム食べたいわ、ってゆきずりの誰かにねだること 可能性。すべての恋は恋の死へ一直線に堕ちてゆくこと/穂村弘『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』 穂村…

東田直樹「夏の気分」鑑賞

僕たちは、おかしいほどいつも、そわそわしています。一年中まるで夏の気分なのです。人は何もしない時には、じっとしているのに、僕たちは学校に遅刻しそうな子供のように、どんな時も急いでいます。 まるで、急がないと夏が終わってしまう蝉のようなもので…

逆照射されるドミナント・イメージ:瀬口真司「「脱出」の列へ : 塚本邦雄『日本人靈歌』論」を読んで

短歌のことがわからない。もっと言うと短歌の歴史に到っては知らないに等しいのだが、12/10に以下の論文を読んでから、評をすることの凄さみたいなものに感動して、論文を読んで考えたことを書こうと思っていた。そもそもぼくは専攻が社会科学や社会思想にあ…

遠野遥『教育』感想:「わからない」をめぐって

遠野遥『教育』を読んだ。とても面白かった。 芥川賞受賞作の『破局』が面白かったので、新しく出たこの本を購入した。あらすじをどう説明したらいいのかわからないのだが、帯文に書かれている抜粋を見れば、なんとなくわかると思う。 教育 作者:遠野遥 河出…

詩で書き起こす:インタビューの編集の一事例

まずは、次の英詩をお読みいただきたい。拙訳も付記するので英語が苦手な方は読み飛ばしてくださって構わない。 Pencilling It In The Schaefer is gone.The gold-tipped Parker'srelegated to the drawer,its decisive blackused only on checks. The felt-…

贈与と聖物:感想

" data-en-clipboard="true"> ◇森山工2021『贈与と聖物——マルセル・モース「贈与論」とマダガスカルの社会的実践』東京大学出版会. " data-en-clipboard="true"> www.utp.or.jp 森山は『贈与論』の訳者でもあり、マダガスカルをフィールドとするフィールドワ…

國分功一郎のファイト・クラブ

" data-en-clipboard="true"> ファイト・クラブをAmazon Primeで見た。友達が面白かったと言っていて、気になっていた。 " data-en-clipboard="true"> 自分の感想を言うと、「ぽかーん」という感じ。終盤の仕掛けのあたりで、どんどん世界が内側に閉じていく…

「聞く」の実際。——信田さよ子・上間陽子『言葉を失ったあとで』感想——

◇信田さよ子・上間陽子, 2021『言葉を失ったあとで』筑摩書房. 言葉を失ったあとで (単行本) 作者:信田さよ子,上間陽子 筑摩書房 Amazon 「聞く」の実際。 帯に書かれた大きな文字。対談を読みながら、「聞く」ってなんだろうということを、懸命に考えなくて…

本を食べる先輩——村田沙耶香『私が食べた本』

次の本についての感想です。 村田沙耶香『私が食べた本』朝日新聞出版,2018. 私が食べた本 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2018/12/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る カバンを持たないで外に出るのが何となく手持ち…